【国会報告】金融機能早期健全化法改正

皆さんは金融機関の破たんが相次いだ20年前の「金融危機」をご記憶だろうか?

タイ、インドネシア、韓国などアジア諸国を自国通貨安が襲ったアジア通貨危機。ロシアにも及んでルーブル暴落と国債のデフォルトを呼び、それがさらに飛び火してロシア国債に多大な投資をしていたLCTMというアメリカのヘッジファンド(ノーベル経済学賞らが運用していたことで有名だった)の破たんも生じた。

一方、日本では、バブル崩壊後の地価下落や無謀な投資案件などに伴い、多額の不良債権を抱えた銀行や証券会社が次々と破たんして行った。この時破たんした金融機関のたちが悪かったのは、子会社などに「飛ばし」と呼ばれる手法で不良債権を隠していたため、それが明るみに出たときには、巨額の負債となっていて、直ちに破たんするしかない状況になっていたのだった。債権者にとっても、社員にとっても、株主にとっても世間にとってもまさに不意打ちであった。

現在、金融機能早期健全化法に余剰資金が生じ、それを国の一般会計に組み入れるための法改正が図られており、それに関連して財務金融委員会で質疑が行われ、私も質問の場に立った。

この当時、金融システムの安定のために次々と法案が成立し、法改正がなされ、それによって多くの国民負担が生じた。まずは質疑を参考にこの時起きたことを簡単にご紹介する。

1994年、高度経済成長、バブルを経て、盤石と思われていた日本の金融機関が破綻し始めた。この走りとなったのが、東京協和信用組合、安全信用組合の二信組事件。95年には、兵庫銀行が戦後初の銀行破綻、96年になると、バブル崩壊による地価下落で不良債権の巣窟と化した住専(住宅専門貸付会社)、この処理のための住専処理法が成立している。このときに投入された国費が6850億円、これが非常に多いと国会でも問題になり世論が盛り上がったが、その後の金融機関破綻処理で使われた国費からするとこの6850億円がかわいく見えてくる。97年に入ると、三洋証券が破たんし、地銀の雄と言われた北海道拓殖銀行が、洞爺湖リゾート関連の不良債権と損失隠しのための飛ばしで破綻し、98年には本丸の長銀、日債銀破たんが起きる(リーマンショックの10年ほど前に、日本でも巨大金融機関の破たんが起き、巨大な国民的損失が起きたのだ)。

この一連の破たんの過程で大変問題のある法改正と国費投入が行われていた。最初に行われたのは預金保険法の改正。2信組事件のときは、後の整理回収機構(RCC)となる受け皿金融機関が作られ400億円の金銭贈与が預金保険機構より行われただけであったが、96年の預金法改正では、預金の全額保護を行うことができるとされた。それまでは、1000万円が預金保護(ペイオフ)の限度額であったが、このとき、ペイオフの限度が特例措置として外されたのであった。これによって預金者は救われたのだが、反面、税の投入により、非常に多額の国民負担が生じた。財金での政府答弁によれば、その額は10兆4326億円という巨額なもの。問題は、このルール外の負担が本当に必要であったのか?ということだ。平成14年の一世帯あたりの預金平均値は、1680万円。ただし、最も多い中央値(中位数)は1022万円であった。つまり、一般市民救済という観点からすれば予定されていた1000万円でもほぼ足りていたのだ。あえて特例措置を行ったことによって、救われたのは富裕層であったという側面は否定できないものだろう。

より問題であるのは、長銀と日債銀の国有化であった。この両銀行の処理を主眼として、金融再生法が成立し、破綻銀行の特別公的管理、一時国有化が行われ、両銀行の預金者だけでなく両銀行に対する債権者も全額救済された。このときに投入された国費はなんと約17兆2000億円。そのうち約8.3兆円の国民負担が確定している。しかもこれだけの国費投入して一時国有化して救済した両銀行を、国は民間投資グループに売却しているのだが、いったい幾らで売却したのか?

その答えは各々10億円。

それでは10億円で叩き売った両銀行が一体今幾らの価値になっていると思われるだろうか?

その答えは新生銀行(旧長銀)8306億円、あおぞら銀行(旧日債銀)4290億円。

もちろん、買収後の民間経営が努力したというのもあろうが、巨額の国費が投入されたことを思えば、不公平だと感じざるをえない。

そして、総額で19兆円もの国民負担が民間金融機関の破綻処理のため生じたのであった。

さて、話を現在に。このような金融危機も元はといえばバブル崩壊が原因であった。今もバブルが心配されている。何のバブルかといえば、日銀、FRB(アメリカ)、ECB(EU)などの中央銀行主導の大規模な金融緩和政策によって生じている金融バブル、中央銀行バブルだ。中国も実はかなりの量的緩和政策を行っているとも報じられている。この副作用で世界中にマネーがあふれて、金融バブルが起きているのではないかと危惧されるのだ。

麻生財務大臣も、野田元総理の質問にアメリカでは一部不動産の地価上昇に心配がある旨答弁されていた。私の質問に対しても、(G20各国などでも)気をつけていがなければならないということは「みんな一致しております」と答えられていた。そして、日銀の雨宮副総裁は、別の委員の質問に、平成バブルの原因として当時の日銀の金融緩和政策を挙げられていた。

ご承知の通り日銀の異次元緩和は既に5年経過している。FRBはもっと長い。この中央銀行バブルというか金融バブルが心配されるのは、株や不動産だけではない。マイナス金利の国債が取引されているのだから、人為的な国債バブルも生じているのだろう。
バブルというのは崩壊してみなければわからぬところがあるというのは、麻生大臣の答弁であったが、金融バブルの崩壊で株式市場が崩れれば、日銀、GPIFなに多大な損失をもたらす。また、それに伴って金融危機が再び起きれば、またも巨額の国民負担と、不公平な解決が伴うのだろう。
平成バブルの崩壊が昭和の歪みの蓄積による必然だったように、中央銀行バブルの崩壊は、平成の歪みの蓄積による「令和バブルの崩壊」として語り継がれるのではないか。そんな危惧を抱かざるを得ない。