【国会報告】漁業法改正に関する代表質問

 先日(H30.11.15)の衆議院本会議では、漁業法改正案に関する代表質問が行われました。一見地味にも見える改正案ですが、日本の漁業の在り方をかなり変えていく可能性がある法案です。
 日本の農業の衰退は話題にのぼることもありますが、漁業についてはマスコミもあまり注目していません。しかし、世界的には漁業生産量が伸びている中、日本の漁業生産量は、1984年の1282万トンをピークとして、2017年には430万トンと、なんと3分の1近くに減っています。漁業者の数も14万人であり、決して多いとはいえない状況です。
 このような状況からしてみれば、何かを変えていかなければならないことは事実でしょう。
 今回の改正案は、漁業権の存続期間終了後,地元漁業者が漁場を「適切かつ有効に活用」している場合は、従前通り漁業権を付与する。そうでない場合は、企業を含めて最も発展に寄与するものに付与する、とするもので、今までの法定の優先順位(簡単に言えば既存の漁業者の既得権)は廃止する、というものです。このほかにも,資源管理について,資源評価を行って期間中に取れる数量の最高限度を定め,これを船舶毎に割り当てるなどの制度が整備,遠洋・沖合漁業の漁船の大型化についても改正案に盛り込まれました。改正案を提出した政府与党の狙いは、「漁業権」に縛られた現状に新規参入の余地を与え、企業を中心として生産性の向上を図ろう、としたものです。

 日本においては、「保守」と「革新」がねじれている、というのが作家の橘怜氏の指摘ですが、この法案を巡る審議でもその傾向ははっきりと現れていました。

 自民党細田健一議員からは,「世界の漁業生産量が三十年間で二倍以上に拡大する中、かつては世界第一位だった我が国の生産量は、ピーク時の約三分の一にまで減少をしていること,世界では養殖業が急拡大し、養殖による生産量が漁業生産量と拮抗する規模になっている一方で、我が国の養殖業は水産業全体の二割の生産量しかない現状を打破する必要がある」,との指摘がなされました。
 確かに,先日BSの世界のニュースでも,ノルウェーでの極めて先進的・近代的かつ大規模なサケの養殖の様子が紹介されて,彼我の違いに驚いたことがありました。日本の漁業も改革が迫られています。
 細田議員は,続けて,「漁業者の減少に歯どめがかからず、高齢化も進んでいる」とも述べました。これも漁業に限らず,日本の中小規模の産業に共通した課題です。細田議員がいうように,「十年後、二十年後の我が国の水産業のあるべき姿をどのように捉えているのか」という視点は欠かせないものでしょう。
質問の要所は,「沿岸、養殖漁業にかかわる海面利用制度の見直し」に伴い,「漁業協同組合の位置づけや役割はどうなるのか、漁業権付与の優先順位の廃止により、浜の現場が混乱するのではないか」というものでした。
 これに対する吉川農水大臣の答えは「漁業者の減少、高齢化が進む中で、地域によっては漁場の利用の程度が低くなっているところもあり、今後、どのように沿岸漁場の管理や活用を図って地域の維持、活性化につなげていくかが課題となっています。このため、本法律案においては、法律で詳細かつ全国一律に漁業権免許の優先順位を定める仕組みを改め、漁場を適切かつ有効に利用している漁業者や漁協については、将来に向けて安心して漁業に取り組んでいただけるよう、優先して免許する仕組みとしたところです。その上で、利用の程度が低くなっている漁場については、地域の実情に即して水産業の発展に寄与する者に免許するなど、水面の総合利用を進めることとしています。
 こうした改正は、漁協や漁業者の経営の安定化、新たな投資等による経営の発展に向けたインセンティブとなるとともに、漁業者に将来への展望を示し、地域の創意工夫を生かした浜の活性化につながるものと考えています。」というもので,ほとんど答えになっていません。入管法改正の議論でもそうでしたが,政府側答弁は,質問をはぐらかすものが多く,与党議員の質問に対してさえこの有り様です。この答弁で素通りしてしまうところに今の国会の病床の深さを感じざるを得ません。

 続いて立憲民主党神谷裕議員。「今回の制度改正はいわゆる官邸主導、安倍総理のもとに置かれている規制改革推進会議の、~,漁業については全く素人で構成する水産ワーキング・グループにおいて」、昨年九月からスタートした検討で、「「水産政策の改革の方向性」が提示され、本年六月には、政府の農林水産業・地域の活力創造プランの中に水産政策の改革について位置づけられ、そのわずか五カ月後の十一月六日に、漁業者、漁業現場の声を聞かないまま、本案が国会に提出されたもの」との指摘。
規制改革においては既存従事者や既得権益者の声を聞いていては思い切ったものは出来ませんが,それにしても拙速との指摘は正当でしょう。
 質問としては,「なぜ決定までにきちんと水産関係者の意向を聞いてこなかったのか」というものでした。これに対する農水大臣の答えは「これまで、水産政策審議会、地方説明会などさまざまな機会を通じて、漁協や漁業関係者等との意見交換を行っており、法案の内容についても、漁業者の全国団体の理解をいただいている」というものでした。
 質問者は,改正案策定の過程を尋ねたのに対し,策定後に意見交換して理解を得た,というこれもはぐらかした答弁でした。
また,「船舶等ごとに漁獲割当てを行うとともに、漁獲割当量の譲渡を行うことができる」という制度では,「漁業許可が個人所有的なものへと既得権化し、漁獲割当量が資金力のある経営体に買い上げられ、特定の経営体に集中し、沿岸、沖合等の漁業資源や漁業現場に大きな影響を及ぼすことが必至」で「水産資源の実情や漁業秩序に合わない」との質問もありました。これに対する回答は「実質的な活動内容に着目し、漁場を適切かつ有効に利用している漁業権者に優先して免許するとともに、未利用の漁場等については地域の水産業の発展に寄与する者に免許する仕組みに改めることとしております。これにより、地域の漁業に支障を及ぼす者に免許される事態を防ぐことが可能となるため、地域の漁業、漁村が果たしてきた機能が根本から失われるといった事態を招くことはないと考えております。」というもので,やはり正面から問いに答えるものではありませんでした。

 国民民主党の緑川議員。地元秋田の紹介から始まりました。この手の話は全国民の代表者としての立場と、地方の声を国政に届けるという立場の緊張関係を踏まえることが必要です。その後、種子法、私有林の管理に続いて、漁業も官邸主導で大きな変化がもたらされようとしていることへの警戒感が述べられました。
 質問としては、資源管理の方式として、「MSY、最大持続生産量と呼ばれる、漁獲資源量の自然回復力を踏まえた最適な資源量を基準とする方式へ今変更する」理由、「漁獲割当て量を他者に移転することは船舶を譲渡した場合などにしか認められていないが、当の船舶の譲渡自体には制限がないため、船舶を買い集めたものによってその地域の漁業権が寡占化しないか」、さらには「既存の漁業権者が権利を継続する前提にある、漁場を適切かつ有効に活用しているという条文について、具体的にはどのような状態を指すのか、これでは白紙同然の法案であり、何らかの判断基準を国として示すお考えはあるのか」という質問がなされました。最後の問題提起は、入管法改正案とも共通するところで、三権分立の建前からいっても大きな問題です。
 これらに対する農水大臣の答えは、「現行の資源管理法においても、漁業可能量の設定に当たっては、MSYを実現できる水準に資源を維持し又は回復させることを目的とすべきと定められております。今回の法改正においては、より確実にこの実現を図るため、目標管理基準等を導入することとしています。」「本法案では、船舶等とともに設定された漁獲割当てを譲り渡す場合等であって、農林水産大臣や都道府県知事の認可を受けたときに限り、漁獲割当ての移転をすることができることとしたところです。また、このような船舶の譲渡が行われる場合、漁業の許可の承継についても農林水産大臣や都道府県知事の許可を受ける必要がありますが、本法案では、許可の不当な集中に至るおそれがある場合には、この許可をしてはならないこととしています。」と、最初の2つの質問については珍しく噛み合った答弁でした。しかし、肝心の「地域の水産業の発展に最も寄与すると認められる者の判断基準について」の答えは「地域の水産業の発展に最も寄与するとの判断は、例えば、漁業生産がふえて、地域の漁業者の所得向上につながる、地元の雇用創出や就業者の増加につながるなど、地域の水産業の発展に寄与する度合いによって判断されることとなりますが、地域の実情に応じて総合的に行われるものと考えております。実際には、各地域のさまざまな条件のもとで多様な漁場の活用実態があり、地域の漁業に精通する都道府県が実態に即して判断することとなりますが、都道府県によって判断の基準が大きく異なることがないようにする観点から、国が技術的な助言として考え方を示していくこととしました。」というもので、およそ客観的判断基準を読み取ることはできないものでした。

 無所属の会の金子議員は「まるで、現在の漁業、水産業は効率が悪いので、効率重視の大資本にお願いし、漁業を再生していただき、成長産業にしたいと言っているようです。」「水産改革の重要な方向性は、漁業者、漁村、地域社会を守ることであるべきです。」と冒頭述べられました。生産性の向上と、既存漁業者の保護、これは本当に対立関係にあるのでしょうか。両者は緊張関係を孕みつつ、改革をし続けていかなければならないのが今の自由貿易・自由経済社会ではないでしょうか。質問は、漁業権の継続に関する判断基準と新たな漁業権の設定についてでした。これに対する農水大臣の答えは「適正かつ有効に活用している場合とは、漁場の環境に適合するように資源管理や養殖生産を行い、将来にわたり持続的に漁業生産力を高めるように漁場を活用していける状況と考えております。具体的には、個々の事案ごとに、地域の漁業に精通する都道府県知事が実態に即して判断することとなりますが、都道府県によって判断の基準が大きく異なることがないようにする観点から、国が技術的助言を定め、適切かつ有効の考え方を示していく考え方です。」「法律案においては、都道府県知事が、漁業を営む者等の利害関係者の意見を聞いて検討を加え、その結果を踏まえて海区漁場計画案を策定しなければならないこととしています。また、計画については、海面の総合的な利用を推進するとともに、それぞれの漁業権が漁業調整その他公益に支障を及ぼさないように設定されなければならないこととしています。新たな漁業者との設定に当たっても、周辺で操業する他の漁業への影響を考慮した上で判断がなされるものと考えております。」というもので、先と同じく具体的中身は読み取れないものでした。

 共産党は、田村議員。漁業権を知事が企業に与えることを可能とすることや、漁獲量の正確な把握は可能か、漁獲割り当ての仕組みについての質問がありました。ただ、すべての変革に反対という立場が色濃いものであり、先の橘氏の指摘通り左翼が実は保守という側面を感じました。

 維新は、森議員。入管法改正案が成立した場合の対象業種に漁業が含まれていることが漁業の生産性向上を目指した本法案と矛盾しないか、という他党にはない観点からの質問があり、面白い視点だなと感じさせました。

 総じて、農水大臣の答えが質問に対して正面から答えていない感が強く、残念ながら物足りない質疑と言わざるを得ません。民主主義の基本の一つは討論にあります。政府もその点は今一度認識すべきでしょう。