【国会報告】国会における論戦にこそ注目を!そこに政権担当能力が示されている

昨日の財務金融委員会では,麻生財務大臣の所信演説についての質疑が行われました。最初に指摘しなければならないのは,国の財政が危機的状況にある中,その財政に関する最も重要な政府の所感が表されているのが財務大臣の所信演説です。これに対する質疑ですから,当然各党委員(党によっては複数議員が質問されます)の質疑もこれを中心にした真剣な議論が行われるべきところです。期待どおりの正面からの論戦があった一方で,本題から遠く外れた質問,揚げ足取りのみを狙ったかのような質問など,そのような気概が感じられない質問が見受けられたことは極めて残念でした。政府与党の政治にこれだけ問題がある中,政権交代の機運が盛り上がらないことの一因というか主因は,野党の政権担当能力を国民が疑問視しているからでしょう。その意味で,国会における質疑では,自党の政権担当能力を示すような正面からの論戦を挑む姿こそ期待されるところです。そういった観点から,ここではいつものように,みるべき質問が行われた部分について紹介させていただきます。

国民民主党の緑川議員は,まずプライマリーバランス(PB)黒字化達成の目標が先送りされたことを指摘し,その上で国債と借入金の合計の国の借金が1100兆5千億円に達している,これは次の世代への先送りであり,第2次安倍政権発足以来175兆円も増えていることについて歳出改革の姿勢について問いただされました。麻生大臣は,「国の借金ではなく政府の借金」「国民は国債を買っておられるので債権者であって債務者じゃありません」とカウンターを浴びせました。しかし,結局政府の借金は将来の国民の税金で返すのですから実質的には国民の負担,つまり国の借金です。次に,2025年度PB黒字化計画について,新経済再生計画では実質で1.5から2%,名目で3%の経済成長が前提とされており,民間予測の2倍近くで,近年の実績にもないものであってハードルが高いと質問されました。これは,私が最近のブログ(Bプランなき財政再建計画https://ameblo.jp/masayuki-aoyama/entry-12439569005.html)で指摘したことと同旨であり,あまり注目されていないところを的確に指摘された良質な質問でした。これに対する麻生大臣の答弁は,「現政権の基本政策は,経済再生なくして財政再建はできない」とだけ。つまりは景気頼み,ただそれだけなのです。

やはり国民民主党の前原議員は,日銀の量的緩和政策の変化について,わかりやすいグラフを配布された上で,黒田総裁を参考人として呼ばれて質問されました。まず,アメリカのFRBの方針転換(利上げ基調から利下げへ)に関する大臣の見解を尋ね,その上でアメリカが利下げして日本との金利差が縮まれば円高になる可能性がある,その場合追加緩和できるのか,ETFも買い過ぎだし,金利低下で金融機関がかなり毀損し始めている,そういった中で追加緩和できるのか,という本質的なところを黒田総裁に質問しました。黒田総裁は,為替相場にリンクした金融政策は行っていない,その時々の状況に応じて最適な方法を検討していく,という具体性に乏しい答弁でした。アメリカ議会でのFRB議長証言であればとても持たない内容でしょう。続けて,日銀の積み上がったETF(株)資産は,株価の変動で大きな含み損となること(日銀のバランスシート上日経平均が1万7700円で赤字となり,1万1700円で日銀を債務超過に転落),金利低下でどんどん金融機関の経営を悪くする,ということを指摘した上で,この先もETF買い続け,6兆円も積み増すのか,と質されましたが,黒田総裁は影響を十分考慮した上でETF買いを続ける,と答えたのみでした。
こういう質問こそ,十分に時間をかけ,論戦となることが期待されるのですが,前川議員の質問時間は30分で時間切れ。残念です。

社会保障を立てなおす国民会議の野田議員(元総理)は,所信演説に関する質疑ということで,まさに前回配られた麻生大臣の所信表明のペーパーに線を入れられての質問でした。その姿勢はさすがです。まず,日本経済の景気回復について,「企業部門の改善が家計部門に広がり,好循環が進展する」と書かれているが,報道機関各社の世論調査結果で示された国民の実感とは乖離があり,認識不足ではないか,との趣旨の質問をされました。締めの質問では,「新規国債発行額を安倍内閣発足以来7年連続で縮減」とあるが,自分が財務大臣,総理大臣だった2011年2012年もそうだし,平成30年度は,補正予算で新規国債発行をしているので新規国債発行額は増えている,という事実に基づく指摘をされました。麻生大臣もこれらは率直に認められ,実は補正も含めれば新規国債発行額が増えた年度は計2回あったと言及されました。

立憲民主党の福田議員は,平成元年度から平成29年度の消費税累計額が349兆円,これに対して法人3税の減収額累計が280兆円であり,8割が法人3税の減収で消えていることを質問されました。この問題は私も以前から指摘しているところです。この質問に対する麻生大臣の回答は「企業の活力と国際競争力の維持する,強化するというため」というもので,あまり説得力はありませんでした。

各党の質疑を評価すれば,党として真面目に日本の経済財政運営に関する議論に取り組もうとされているところとそうでないところの差が一層開いてきているようです。しかし,国民にこの姿は明らかとはなっていません。これは,マスコミの報道が,刺激的・刹那的な問題に偏り地道な政治の姿を報じようとしない,というところにも問題があるでしょう。日本の政治の質を上げるためにも,これからも出来る限りのリポートを続けていきます。